「私……、悔い改めたくないんです」
引用:出版禁止 / 長江 俊和 本文30pより
「悔い改めたくない?」
「私たちのとった行動は、人の道に反した行為だったと思います。(中略)
でも……今でも私は、間違っていたとは思ってないんです。過ちだったとは、思いたくない……。(後略)」
著者・長江 俊和は掲載禁止になったルポタージュを知人から受け取ります。
執筆者はライターの若橋呉成。内容は著名なドキュメンタリー作家、熊切敏と心中し、ひとり生き残った女性、新藤七緒への独占インタビューだった。
この小説は著者・長江 俊和がそのいわくつきのルポタージュ「カミュの刺客」を紹介する、という形式になっています。
もちろん、小説ですので、そのルポタージュも心中事件もフィクションなんですが、一見ホントの事件の取材記録に見えるような構成になっており、いわゆるフェイクドキュメンタリーになっています。
「フェイクドキュメンタリー」とは、嘘 (フィクション)を前提にしながら事実 (ドキュメンタリー)であるかのように見せる演出手法。
冒頭の引用はライターの若橋呉成と生き残った女性、新藤七緒との会話です。
最初の取材時に心中についてこう語った新藤七緒。
しかし若橋呉成は亡くなった熊切敏をドキュメンタリー作家として尊敬しており、本当にひとりの女性のために心中などしたのかと疑問を抱きます。
本当は何者かによって亡き者にされたのではないか?
例えば熊切敏のドキュメンタリー作品の中でコケにされた大物政治家の仕業ではないのか…。
そう思っていると、心中の一部始終を記録した映像があるという話を耳にします。
若橋呉成はそれをぜひ手に入れたいと思いますが、現在どこにあるのか?また、本当にそんな映像は存在するのか?そしてもし本当にあるとしたら事件の解明に役立つような映像が記録されているのか。
そして、そもそもなぜこのルポタージュは掲載禁止になったのか。
徐々に謎が解き明かされていきます。
読み進めていくと「おや?」と引っかかる部分はけっこうあるので、結末の予想をたてながら読むのも面白いと思います。
最後の謎解きパートの時になるほどそういうことか、と前のページに戻りながら気づかなかったトリックにニヤリとしてしまうような部分もあるのがたまらんですね。
恐ろしい雰囲気、人間のおぞましい行い、そして作者のトリックに騙されたい人にはおすすめの小説です。
新藤七緒のミステリアスな魅力がとても強調されていて、まぁ、そうなるよね😅っていう展開なんかもあります。
また、インタビュー形式の部分も多いので話が頭に入ってきやすく、私は好きでした。
謎が気になって一気に読んでしまうので、お休みの日の一気読みにもおすすめだと思います!
ただ、若干のグロテスクな表現があるので、苦手な方はちょっと気を付けた方がいいかもです。
著者の長江 俊和さんにはこの「出版禁止」を含めた禁止シリーズというものがあるらしいので、またどんでん返しを期待して読んでみたいと思いました。
あ、そういえば文庫本には珍しく?しおりのひもが付いているのがちょっと嬉しかったです。