大手製薬会社社員の藤井賢一は、不祥事の責任を取らされ、山形の系列会社に飛ばされる。鬱屈した日々を送る中、東京で娘と母と暮らす妻の倫子から届いたのは、一通の不可解なメール。〈家の中でトラブルがありました〉数時間後、倫子を傷害致死容疑で逮捕したと警察から知らせが入る。殺した相手は、本社の常務だった──。単身赴任中に一体何が? 絶望の果ての真相が胸に迫る、渾身の長編ミステリ。
引用:「悪寒」伊岡 瞬 裏表紙より
「中年男の鈍感さはそれだけで犯罪だ」
引用:「悪寒」伊岡 瞬 本文より
読んでいてなんだかもやもや・イライラするなぁ、と思っていたら、本文にこの文言が登場。
あ、まさにそれだ!
主人公の藤井賢一を表すのにまさに的確な一文。不祥事の責任を取らされることになった経緯も妻を信じきれない気持ちも弱腰に感じてしまって、終始不愉快な気持ちになってしまう。
特に妻の不貞があったんじゃないかという疑惑が出てきた時の自信のなさ、妻を疑う気持ちに読んでてイライラ・・・。
でもこの主人公って、妻は美人、学生時代にいちゃもんつけてきたクラスのマドンナも彼に好意があるからでは?って感じだし、部下にも愛人にしてほしいみたいなこと言われるし、イケメン設定かな?
情けないキャラクターではあるんですが、これが普通の人間なのかしら、という感じもして、悲劇なのにどこか喜劇を感じるような雰囲気もあります。
そんな主人公が必死になって真相を確かめようとする中で、同じく事件の真相を疑う刑事、真壁修というキャラクターも出てきます。
このキャラクターは伊岡 瞬さんの「痣」という小説に出てくるキャラクター。そちらは真壁が刑事を辞職しようとしている作品です。
時系列的には「悪寒」の方が後に来る話なので、なぜ彼は刑事のままでいようと思ったのか気になった方はこちらも合わせてどうぞ。
解明への糸口がちょっとずつ見えてきた、かと思ったら証言に食い違いが出てきて、誰が嘘をついていて、誰が本当のことを言っているのか、中盤からの加速していく展開は一気読み必至です。
読んでる最中のずっと辛い、どんよりした曇り空を進んでいるような気持ちと、読後のスッキリ感の差がすごいです。
主人公にイライラさせられたのも、作者の意図通りだったんだろうなぁ、と思います。
物語に没頭して作者の掌の上で転がされたい人にはおすすめのミステリーです。